(良かった……やっと解放される)


 清香はほっと胸を撫でおろした。ようやく紫から逃れられる。そう思うだけで幸せな気分になった。
 その時、隣からも安堵のため息が聞こえてきた。崇臣だ。どうやら清香と同じ気持ちらしい。


(なるほどね)


 崇臣が“藤野”と言及した時に、心底嫌そうな顔をしていた理由を清香は実感した。


「あんた、これまであんな厄介な女を一人で追っ払ってきたのね」


 芹香たちの方へ向き直りながら清香が言った。

 恐らく、東條はこれまで紫から望まぬちょっかいをかけられてきた。そして、その度に崇臣が紫を撃退してきたのだろう。
 さすがの紫も、清香に対するように東條に接したわけではなかろうが、厄介な存在であることに変わりはない。主の成長に害のあるものは、できる限り排除したい。それが崇臣の本音だろう。


「まあな」


 崇臣はそう言いながら、清香の肩をポンと叩いた。


「でも、これからはおまえが一緒だろう?」


 思わぬ言葉に清香が顔を上げると、崇臣は不敵な笑みを浮かべていた。理由も分からぬまま、清香の頬に朱が差す。