「それはご遠慮ください。主は今、楽しいひと時をお過ごしの様なので」


 そう口にしたのは崇臣だった。紫の前に颯爽と躍り出て、彼女の行く手を阻んでいる。
 紫は眉間に皺を寄せながら、頬をカッと赤く染めた。どうやらプライドを大層傷つけられたらしい。


「別に、挨拶ぐらい良いでしょう?」

「いえ、良くありません。あなたはそのまま主の邪魔をなさるでしょう。俺はそれを阻止するためにここに来たのです」


 崇臣は歯に衣着せず、ハッキリとそう言い放つ。ぐぬぬ、と悔しそうに歯噛みをしながら紫が崇臣を睨みつけた。


「お姉ちゃん、崇臣さんの言う通りよ。私、二人のお邪魔をするためにここへ来たわけじゃないんだから」


 暁がそう言って紫の裾を引っ張った。困ったように顔を顰めている。
 暁の言葉を聞くと、紫は唇を尖らせた。一応前世の主従関係が完全に崩壊したわけではないらしい。ややして踵を返しながら、紫はフンと鼻を鳴らした。


「お騒がせしました。崇臣さん、薙野さん、それではまた」


 暁が苦笑いしながら頭を下げる。そのまま二人は、ゆっくりと遠ざかって行った。