「そうなんですね。それはどうもありがとう」


 清香はそう言ってペコリと頭を下げた。清香の視界の端に、芹香と東條がチラリと映る。二人は仲良くバラの写真を撮っているらしい。


(あぁ、こんなことをしてる場合じゃないわ!二人の写真を撮らなきゃいけないのに)


 心の中で清香が悲鳴を上げた。
 とはいえ、好意的に声を掛けてきた相手を邪険にできるような性格もしていない。愛想笑いを浮かべながら、清香は暁に向き直った。


「実は今日、奏君が芹香さんとここに来るつもりだって聞いて。それで私も来てみたんですけど……」


 暁がそう言ってはにかむ様に笑う。

 聞きなれぬ言葉に清香が首を傾げると、崇臣が東條の方をチラリと見た。なるほど、奏とは東條の下の名前らしい。どうやら暁と東條の付き合いは、それなりに長いようだ。


(これはマズイ……芹香と東條さまの仲を邪魔されるわけにはいかないわ)


 面識がないため定かではないが、恐らく暁こそが、芹香とは別の、東條のもう一人の中宮なのだろう。ならば暁は、芹香にとって最大のライバルともいえる相手だ。

 清香は表面的には笑顔を絶やさないまま、心の中で眉間に皺を寄せた。不穏な感情はどうにも拭えない。それは致し方ないだろう。