(いやいや、教養ある女がこんな辛辣で人を落とすような文章書くんかい!って話だけど……)


 藤式部という人物は、この国における元祖小説家として、今なお名の残る人物だ。

 対する清香だって藤式部に引けを取らない、当時のベストセラー作家であったし、現在に至るまで、歴史にその名が残っている。

 けれど、宮仕えから引退した後、清香は執筆活動からも退いていた。個人的な文章を書くことはあっても、表立って発表等していない。だが、藤式部があの辛辣な文章を書いたのは、清香の引退後の話だった。現役ならまだしも、引退後に勝手に引き合いに出されたもので、清香としては良い迷惑だった。

 しかも、恐ろしいことに清香と藤式部とは直接面識もない。一方的に敵意を向けられたのは、清香にとって理解しがたいことだった。


(私は良いと思ってたんだけどなー……藤式部の作品)


 清香は小さくため息を吐いた。
 その瞬間、二人組のうちの一人、藤式部の方と目が合う。すると、藤式部は汚らわしいとでも言いたげに、ぷいっと思い切り顔を背けた。さすがの清香も、思わず顔を顰めた。