(あぁ!やっぱり芹香は特別よ……!)


 齢一つしか違わないというのに、清香はそんなことを思う。本当に素直で素晴らしい娘に育ってくれた……そんなことを思いながら、ついつい感嘆のため息が漏れる。


「いや、俺の方こそすまない。花に見惚れていたんだ」


 男は、良く通る鈴の音のような声でそう言うと 、ゆっくりと顔を上げた。その瞬間、芹香も、そして清香も、大きく息をのんだ。
 柔らかそうな黒い髪の毛にクッキリとした目鼻立ち。制服を品よく着こなし、全身からは高貴なオーラが滲み出ている。着物の良く似合いそうな、その顔と風貌は、芹香の隣に立てばさぞやお似合いだろう。清香はそう思った。

 彼の存在が清香の心の奥に眠っていた何かを呼び覚ます。まるで時が止まったかのような……寧ろ巻き戻ったかのような、奇妙な感覚が清香を襲った。


「とうじょうさま……」


 思わず口を吐いた言葉を清香は呑み込んだ。けれど時すでに遅し。言葉は男の耳に届いてしまったらしい。


「……確かに、俺の名前は東條といいますが……どこかでお会いしたことがありましたか?」


 東條と名乗った青年は、不思議そうに首を傾げて笑っている。その瞬間、清香の目頭がじわりと熱くなった。