(正直関わり合いたくないタイプだな)


 清香はひとり、そんなことを思う。すると、二人組の片割れと目が合った。老け顔の女の方だ。


(なっ……!)


 女はあからさまな敵意を清香に向けていた。細い瞳を更に細め、真っすぐに清香を睨みつけている。まるで、親の仇でも見るかのような眼差しだ。先ほどの悪寒の理由は恐らくこれだと、清香には予想がついた。


(まさか……まさか、この女本当に…………)


 清香はそっと目を瞑った。このすさまじい憎悪は遠い昔――、前世でも一度だけ向けられた覚えがある。

 様々な事情により、前世の清香が宮仕えを辞めた後のこと。帝に命じられ、一度だけ宮中に参内したことがあった。
 清涼殿へと向かう道すがら、御簾越しに今のとよく似た、あからさまな敵意を感じたのだ。顔も姿も確認することができなかったが、あれは帝の――芹香とは別の、もう一人の中宮が住まう殿舎に清香が差し掛かった時だった。


(藤式部……!)


 清香は静かに拳を握った。手のひらには、じっとりと汗が滲んでいた。