「……これも前から思っていたんだが、おまえは何故主のことを、前から知っているかのように話す?」


 崇臣の思わぬ言葉に、清香の指がピタリと止まった。


「お前が主と初めて会ったのは、あの日が初めてだろう?妹のように直接やり取りもしていない。それなのに、何故そこまで推せる?信頼できる?」

「…………」


 清香は無言のまま崇臣を見た。
 これまで崇臣とは同じ景色を見ていると思っていた。芹香と東條の向こうに、二人の過去を見ているような気がしていた。けれど、それは誤りなのだと思い知る。中々に痛いところを突かれたものだ。


(私にしか前世の記憶がないなんて……そんなの分かり切っていたはずなのに)


 何故だかそれが無性に悲しかった。悔しかった。言いようのない感情に襲われ、清香は俯く。


「おい……」


 崇臣は困惑した様子で、眉間に皺を寄せている。


(何か言わなきゃ……)


 そう思うものの、言葉がうまく出てこなかった。
 崇臣がそっと清香に向かって手を伸ばす。清香の頬に、崇臣の手が触れそうになった、その時だった。