「お前のところはどうなんだ?そこそこ裕福な家に見えたが」


 崇臣が尋ねる。清香としては少し意外に思えた。この男は基本的に主以外の人間に興味を示さないからだ。


(それだけ東條さまが芹香に関心を持ってるってことね)


 芹香が東條に相応しい人物か、崇臣なりに見極めたいのだろう。そのためには、芹香本人ではなく、直接やり取りのある清香に尋ねた方が効率が良いのだ。清香はそう推理した。


「まぁ、それなりに……ね。でもお抱えで運転手を付けるような親じゃないのよ」

「ふぅん……」


 崇臣は顎に手を当て、清香を見下ろす。まるで清香自身も値踏みをされているかのような、そんな感覚だった。


(まぁ、慣れてるけど)


 約千年前、宮中でしょっちゅう向けられた目だ。

 見た目、教養、言葉の応酬……女房の対応というのはすべて、主の評価に繋がる。中宮の女房ともなると、周りの向ける目はよりシビアになるものだ。常に粗探しをされているようなものなので、清香は一瞬も気が抜けなかった。それに比べれば帝の側近との応酬など、容易いものだった。