それから程なくして、芹香と東條は電車に乗り込んだ。清香と崇臣も、二人と同じ電車の別の車両に陣取ることに成功した。二人から見えない、絶妙な位置だ。


「てっきり東條さんは、電車なんか乗ったことないと思ってた」


 電車のドアに凭れ掛かりながら、清香が言う。崇臣は、清香に向かい合うようにして立っていた。180センチを超えるであろう長身は、目の前に立たれると妙な圧迫感がある。


(落ち着かん……)


 清香の胸は奇妙にザワついた。


「主の希望で俺が教えた。庶民と同じように生活ができるようにしたいと、幼いころからずっとそう仰ってきたからな」


 そう言って崇臣は拳をグッと握ると、心底誇らしげな表情を浮かべた。


「なるほどね……。じゃあ、普段はあなたが彼の運転手をしているって所かしら?」

「……その通りだ」


 ガタガタと電車が小さく揺れる。


(やっぱりね)


 清香は軽く目を瞑りながら、口の端に笑みを浮かべた。