「……言っておくが、清香も十分目立っているぞ」

「そんなことあるわけ……ってちょ!?こんなことしてる場合じゃないわ!二人が動くわよ!」


 崇臣を押しのけながら、清香が眉間に皺を寄せる。崇臣は身を乗り出すと、清香の頭に自身の顎を乗せた。グリグリと刺激される頭が痛む。けれど、今はそれどころではなかった。


「どこに行くんだろう?あんまり離れると追いかけられなくなっちゃう」

「……恐らくは、ここからそう遠くないバラ園だ。主がこの間リサーチしているのを確認した」

「さっすがぁ!……ってそれ、どうやって確認したの?」

「企業秘密というやつだ」


 そう口にしながら、崇臣は妙に悪い笑みを浮かべた。


(後ろから覗き見たのか……はたまた東條さまのスマホをこっそりハッキングしてるのか……)


 従者が背後に張り付いているのを快く思う主人はそういない。となると、恐らくは後者が正解だろう。

 清香はニヤリと口の端に笑みを浮かべた。普通ならば引くか、行き過ぎた行動を咎めるべきところだろう。けれど、清香は、この男のこういった部分を好ましく思っていた。