清香の成績が良いのは本当であるが、芹香の方がずっと、見識が深く機知に富んでいる。本当に頭が良いと言うのは妹のような人のことを言うのだと清香は常々思っていた。
 清香にとって芹香は女神の様な絶対的な存在で。幼いころからずっと、この人を支えて生きていくのだと固く信じて生きてきた。


(でもこれは、他の人には理解してもらえない気持ち……芹香にも、きっと)


 清香にはそう分かっていた。けれど、誰かに理解してほしいとも思っていなかった。


「あっ」

「っ!?」


 芹香の声に清香は我に返る。下を向いて歩いていたのが災いしたのだ。誰かとぶつかってしまったらしい。


「すみません、私……前を見てなくて」


 芹香がペコリと頭を下げた。相手は長身の青年だった。紺のブレザーに紫を基調にしたネクタイを身に付けている。


(清涼高校の制服か……)


 幼稚園からエスカレーター式の、この辺では一番格式高いと言われる高校だ。
 とはいえ、ぶつかったのは相手にも非はあろう。そんなことはおくびにも出さず、芹香は自ら何度も頭を下げていた。