(楽しみだなぁ……今日撮った写真は、二人の結婚式でムービーにして流すの)


 清香はそんなことを考えながら、ウットリと目を細めた。手にはこの日のために新調した、一眼レフカメラが握られている。
 ウヘヘ、と不気味な笑い声を漏らしながら、清香は自らの妄想に興奮し震えた。と、その時。


「おぁっ……!」

「っ……いた!」


 清香は、反対側から動いてきた何かにぶつかった。何かというか、ぶつかった時に上がった声から判断するに、相手は若い男性らしい。

 唇を尖らせつつ清香が振り向くと、視界の端に藍色の布地が映った。こんな街中で滅多にみられることのない色合いと、上質な素材のものだ。一か月前、これと同じものを見た覚えが、清香にはあった。


(まさか……)


 顔を上げると、そこには東條の家人、崇臣がいた。崇臣は、仏頂面をしたまま清香を見下ろしている。