東條たちとの出会いから1ヶ月程経った、とある休日。
 通行人でごった返す街の中に清香はいた。

 普段は掛けていない丸眼鏡を着用し、帽子を目深に被って息を潜めている清香は、さながら探偵気分だ。


(よし……やっぱりここがベストポジションね)


  壁に身を預け、チラチラとある一点を覗き見る仕草は、傍から見れば怪しいとしか言いようがない。本人にその自覚がないのは致命的だった。
 けれど、清香の気合が入るのは致し方ないことだろう。なぜなら今日は、あの運命的な出会い以降初めて、芹香と東條が会う日だった。
 芹香と東條が会うことを、清香は知らされていないわけではない。寧ろ芹香からは、どんな服装が良いか相談され、アドバイスまでしてきた。だから、本当は隠れる必要もないのだが。


(二人の初デートに水を差すわけにはいかないもの)


 清香はそう独り言ちながら、ギュッと拳を握った。

 二人きりの特別な空間、特別な時に身内の姿がチラついては興ざめだろう。だから清香は、こっそりと二人について回ることにした。因みに、ついて行かない、という選択肢は清香の中に全く存在しない。