(私、今日この日のために現世に生まれ落ちたんだわ!そうに違いない……!)


 清香はふるふると唇を震わせながら芹香の隣に腰掛けた。


「素敵じゃない!」

「うん。あっ、でもね」


 東條との進展を猛プッシュしようとしていた清香は、芹香の思わぬ返しに言葉を噤んだ。


(でも、何?)


 清香の背筋に緊張が走る。芹香は、意志の強い瞳をキラキラと光らせながら、清香を真っすぐに見つめた。


「相手の人となりも全然知らないのに、好きだとか、付き合いたいって思うのは失礼だと私は思うの」


 芹香はそう言うと、清香のベッドから立ち上がった。

 一時の感情に任せ、そのまま突き進む人間も多々いるが、芹香はそういったタイプではない。きちんと相手を見て、そのうえで誰かに恋をしたいと、幼いころからそう話していた。
 それは現世では、ごくごく普通の願いだ。けれどそれは、前世の芹香には許されなかったことだ。

 大臣の娘に生まれた前世の芹香には、帝の元に入内する道しか用意されていなかった。自分の恋した相手と結ばれる、そんな当たり前の幸せは存在しない。
 だからこそ現世では、恋に恋をする――そんな一面を秘めている可能性は否めなかった。