その日の午後。入学式を終えて帰宅した芹香は、妙に浮足立っていた。無理もないと清香は思う。


(だって、ようやく運命の人に再会できたんですもの)


 遠くを見つめるような仕草をしたかと思えば、時折ハッと我に返る芹香があまりに可愛く。清香はだらしなく頬を緩ませて笑った。傍から見れば大層気持ちの悪い表情かもしれない。けれど芹香はそんな清香に慣れているため、いちいち反応は返さないのである。


「そういえば、お姉ちゃんはその後、本当に大丈夫だったの?」


 小さく首を傾げながら芹香が尋ねる。式の前にも、芹香はスマートフォンで何度か連絡をくれていたが、タイミングが合わず、帰宅するまできちんと話ができていなかったのだ。


「ええ。東條さんのお家の方がいらっしゃった時には体調も良くなってたから」

「そう……良かった」


 芹香は心底ほっとしたように胸を撫でおろした。


「実はね、東條さんから、崇臣さんは少し変わった人だって聞いたから、その点も心配してたんだけど」

「崇臣……ね」

(それがあの男の現世での名前か)


 あの後、男こと崇臣は、清香を家まで送り届けると、あっという間に去って行った。
 本当は名前ぐらいは尋ねておこうかとも思ったが、何となくタイミングが掴めず、聞けずじまいだった。