(あぁ……なるほど。そりゃぁそうか)


 清香は苦笑を浮かべながら、そっと影の向かった先を見つめる。

 恐らく影の正体は芹香と東條、それから美玖だろう。三人の目の前で、出かける約束をしたのだ。気になるのは無理もない。それに美玖は、崇臣に淡い恋心を抱いているのだから、なおさらだ。


(芹香と東條さまだけだったら声を掛けるんだけどなぁ)


 そんなことを考えつつ、清香は唇を尖らせる。
 もしも今、美玖が二人と一緒にいるならば、気づかぬふりをするのが無難だろう。隠れたことから判断しても、あちらは清香たちに気づかれたくないに違いない。

 第一、芹香と東條の初デートの時、二人は清香と崇臣が付いてきていることに気づいていて、知らぬふりをしてくれたのだ。清香もそれに合わせた方が良い気がした。


「清香」


 そうこうしている内に着替えが済んだらしい。試着室のカーテンを開けながら、崇臣が清香を呼ぶ。

 清香の予想よりも、崇臣の試着は早かった。遊園地の日、支度に時間が掛かったと東條が言っていたが、それだけ洋装に慣れたのだろうか? 内心わくわくしながら清香は後を振り返る。