「……?」


 そのあまりの唐突さに、清香が首を傾げる。


「何?」

「手を出せ」


 清香の問いかけに、憮然とした表情で崇臣が答える。心臓がドキドキと鼓動を刻みはじめる。唇を軽く尖らせながら、清香は崇臣を見上げた。


「なんで?」

「…………行くぞ」


 面倒くさくなったのか、崇臣は清香の手を強引に握ると、人混みに向かって歩き始める。離れていた二人の距離が、一気に近づいた。

 崇臣はまるで勝ち誇ったような、それでいて嬉しそうな笑みを浮かべ、清香を真っすぐに見つめている。


(……本当は知ってたけど)


 手を差し出された意味など、すぐに分かった。けれど、素直に手を取るのも清香の性格的に難しい。恐らくそんなこと、崇臣にもお見通しだったのだろう。


(ちょっと強引だったけど、繋いでくれて、良かった)


 崇臣に気づかれないよう、清香ははにかむ様に笑った。