「あんた、狩衣はやめたの?」


 心を落ち着かせるため、そんなことを尋ねてみる。崇臣は小首を傾げながら自分の服をまじまじと見た。


「やめたわけではない。が、主が外に出るときは洋装の方が良いと。そちらの方が似合うと言ったのだ」

「あぁ……」


 元々それは、芹香たちと遊園地に行くことになった時に、清香が東條に言わせたことだ。どうやら、あの時の言葉は今でもその効果を発揮しているらしい。


(中々に御しやすい男だなぁ)


 失礼だが、ついついそんなことを考えてしまう。清香はふふっと笑い声を上げた。


「それに、今日はシャツを見に行くんだろう? だったら、こちらの方が選びやすい」

「ハハッ、そりゃぁそうだ」


 当ててみるにも試着するにも、当然狩衣でない方が良いに決まっている。清香は笑いながら、コクコクと頷いた。
 崇臣はそんな清香を見つめながら目を細めて笑うと、無言で手を差し出してきた。