清香はぼんやりと、桜に覆われた空を見上げた。


(この男に聞きたいことは、色々とある)


 隣を歩く古風な格好をした男は、桜並木と相まってどこか幻想的だ。あまり、現の存在とは思えなかった。


(でも私は、どうせなら東條さまの装束姿を拝見したかった)


 そんなことを考えながら、清香は小さくため息を吐いた。

 芹香とのやり取りから判断するに、東條は清香のひとつ年下。芹香とは同い年らしい。対する隣の男は、恐らく二十代も半ばといった顔つきだ。

 約千年前、この男は頭中将として、帝である東條の側に仕えていた。東條の妻……彼の中宮だった芹香に仕えていた清香と似たような立場である。
 共に互いの主に心酔していたという点において、二人の共通点は多かった。


(まぁ、対立することの方が多かった気がするけど)


 主同士が仲睦まじいからといって、従者がそうであるとは限らない。互いの主を最優先すれば、時にぶつかることもある。清香もこの男も互いに譲らないタイプの従者だった。とはいえ現世がそうであるとは限らない。


(少し探りを入れてみるか)


 清香は男をチラリと見上げながら深呼吸をした。