「お姉ちゃん?」


 清香の声が聞こえたのだろうか。ドアが開くとほぼ同時に、芹香がひょこりと玄関に顔を出した。


「せっ、芹香……」


 心の準備は十分にしたはずだった。けれど、いざとなると中々どうして、身体は言うことを聞いてくれない。清香の緊張が一気に高まった。


「……ただいま」

「? お帰りなさい」


 清香の様子に違和感を覚えたのか、芹香が小さく首を傾げる。


(うーーーーん……今のところ、元気そうだけど)


 パッと聞いた限り、芹香の声はいつも通り、明るく聡明ないつもの彼女のままだ。何かを憂いたり、悲しんだりする様子は見られない。けれど、清香の心臓は未だ、不安で張り裂けそうだった。


「あっ、崇臣さん! お姉ちゃんと一緒だったんですか?」


 清香がそんなことを考えていると、芹香が嬉しそうな声を上げた。キラキラと瞳を輝かせながら芹香が玄関へと駆け寄ってくる。それから、清香と崇臣を交互に見つめながら、花が綻ぶように笑った。


(よっ……良かったぁ!)


 どうやら今日の所は、清香が心配していた事態には陥っていないらしい。芹香は何処からどう見ても、いつも通りの可愛いくて明るい芹香のままだ。揶揄するような目つきを清香に向けるところまで、最高に可愛い。清香はほっと胸を撫でおろした。