自分の家の玄関の前にいるというのに、清香の心臓は恐怖でバクバクと鳴り響いていた。


(どうしよう……私がいない間に東條さまと美玖が急接近とかしてたら)


 ドアノブに手を掛けながら、清香は何度も深呼吸を繰り返す。額からは変な汗が流れ落ちるし、気持ちが悪い。


「入らないのか?」

「……!」


 清香のすぐ後ろから崇臣がそう尋ねる。むすっと唇を尖らせながら、清香はほんのり俯いた。
 本当ならば、「まだ帰らないの?」だとか、「崇臣には関係がない」等と憎まれ口を叩きたいところだ。けれど、今の清香には崇臣が必要だった。


「……勇気が出ないのよ」


 ポツリと清香が漏らすと、崇臣は小さく首を傾げた。
 先程の清香の涙の理由を、崇臣は理解しているわけではない。車の中でも改めて追及されることはなかった。あまりにも断片的な清香の話を聞いてもらえる上、否定されることもない。それがどんなに恵まれているか、清香は実感していた。
 俯いたまま清香が小さくため息を吐く。すると崇臣の手のひらがポンと清香の頭を撫でた。


(……! またそれっ)


 先程とは違う意味で心臓が騒ぎ始める。紅く染まった顔を上げた瞬間、清香の手に、崇臣の手のひらが重ねられた。ドアノブを握っている方の手だ。


「ちょっ……」


 清香が声を上げる間もなく、崇臣によってドアは開かれてしまった。