(これ以上この件で崇臣とやりあっても無駄なようね)


 今家まで送ってもらうのと、買い物に一緒に出掛けるのとでは、前者の方が負担は軽そうだ。
 清香は小さくため息を吐くと、崇臣をチラリと見上げた。


「全く! 今回は仕方が無いから送らせてあげるわよ」

「初めから素直にそうしていればいいものを」


 そう言って崇臣は意地悪い笑みを浮かべる。勝ち誇ったような、それでいて何かを慈しむような瞳は、何故だかとても魅力的だった。目が離せなかった。何故そんな風に思うのか、清香は自覚していないわけではない。


(やっぱり好きなんだよな……この男のこと)


 主人に忠実なところや、融通の利かない真面目なところ、普段憮然とした表情が、東條のことでキラキラしたり、清香のことで意地悪になったり、穏やかになったり――――そういう所に惹かれているのだと清香は思う。


(何が運命よ)


 東條と美玖の運命を否定したい。それは間違いなく理由の一つだ。
 けれど今も昔も、自分の気持ちに素直になれずにいる清香に、運命を語る資格はないのではないか。その上で運命の一言に囚われ続けている自分は、とても滑稽なのかもしれない。清香はそんなことを思った。