「まだ何か?」

「俺は主に、おまえを家まで送り届けるようにと仰せつかった。だから、勝手に帰られては困る」


 眉間に皺を寄せながら男が言う。清香は負けじと唇を尖らせた。


「そんなの、ちゃんと送り届けたと、適当に嘘を言えば良いじゃない」

「主が俺に頼むと言ったんだ。そんな適当なことができるわけないだろう」


 堪らず清香はため息を漏らした。

 やはりこの男、千年前からちっとも変っていなかった。何がと言えばこの男、前世から東條命の融通が利かない男なのだ。
 恐らくこの男の魂は、清香がそうであったように、自身の主を追い求め、ここに辿り着いたのだろう。清香はそう思った。

 清香は男をチラリと見上げた。真剣な眼差しで清香を見つめるその様に、心臓が小さく跳ねる。


(ホント、面倒くさい男なんだから)


 抵抗したところで気力と時間が無駄だろう。そう判断して、もう一度盛大なため息を吐くと、清香は男の隣に並び立ったのだった。