「御足労を掛けておいて申し訳ございませんが、もうこの通り。すっかり回復しました」


 東條の寄こした男とこの場所で会った。これで清香は、芹香と東條、二人との約束を果たしたことになる。そう思うだけで、自然に笑みが零れた。


「では、私はこれで。失礼します」


 清香は踵を返すと、後ろ背に手を振った。


(芹香と東條さまは運命の番だもの……きっと私なしでも上手くいくはず)


 二人の仲を取り持つため、この男を利用するという手もある。が、会ってみて清香は実感した。やはりこの男は、出来ればあまり関わりたくない部類の人間だった。

 東條に再会した時、必ずこの男が彼の側にいるだろうと清香は確信していた。何故ならばこの男、清香と性質がとても良く似ているのだ。
 とはいえ、もうこの男と会うこともあるまい。そう思うと、何とも表現し難い感情に襲われ、清香は一人目を瞑った。


「待て」


 ぐいっと腕を引かれ、清香はその場で立ち止まった。


(いきなり予想が的中したな)


 心の中でため息を吐きながら、清香はクルリと後ろを振り返った。