「……?」


 至近距離で、何やら強い圧を感じた。遠い昔のことだが、この圧には覚えがある。清香は恐る恐る顔を上げた。


「おぁっ!?」


 清香の鼻先、触れるか触れないかというぐらい至近距離に、えらく不愛想な男の顔があった。


(やはりこいつか……)


 少しばかり予想していたとはいえ、男の唐突な登場に、清香の身体も心も十分に反応しきれなかった。


(無理もない……この男と会うのも実に千年ぶり)


 そこまで考えて清香は目を丸くした。目の前にいるのが、思っていたのと別の人間だったからではない。彼の身に着けているものが理由だった。

 男は現世にあって、前世からそのまま飛び出したかのような風貌をしていた。藍色の狩衣を優雅に着こなし、色素の薄い髪の毛を後ろで束ね、細いが無駄のない均整の取れた体つき……男は、清香の前世の記憶のままの姿だった。こんな格好で街中に出れば、さぞや目立つことだろう。そう清香は思った。


「えぇっと……レイヤーさん?」

「違う」


 清香が尋ねると、男は眉間に皺を寄せた。


「ですよね~~」


 そんな風に返しながら、清香は苦笑を浮かべた。