「どうした心配事か?」
考え事をしてしまった私を見て、創介さんの眉間にシワが寄る。

「いいえ」

心配事がないわけではない。
でも気にしたって仕方がない。

「ここはいいところだろう?」
「はい」

東京からそう遠くないのに、自然豊かな素敵な場所。
ホテルがオープンすれば、きっと人気が出て多くの人が訪れるだろう。

「実は、俺の思い出の場所なんだよ」

どこか寂し気な創介さんの声に影を感じ、私の手が止まった。

「もともとここは一条家の別荘があった場所で、子供の頃よく遊びにつれてきてもらったところなんだ」
「へー、そうなんですね」

どおりで、よく整備され立木の1本1本まで手入れが行き届いているはずだ。
一朝一夕の工事ではこのスケール感は出ないと思った。

「望愛には、俺の両親が事故で亡くなった話をしたよな?」
「ええ」

突然の交通事故で、まだ小学生上がったばかりの頃だったと聞いた。

「小さい頃に両親と死別したからあまり思い出は多くないんだが、残されたわずかな記憶はほぼここにあるんだ」

当時を思い出すように外を見る創介さんの横顔を、私は見つめていた。