「とにかく、食事にしようか」
「はい」

あまりの絶景にあっけにとられていた私も、創介さんに促され席に着いた。

運ばれてきたのは創作フレンチ。
日本人向けにアレンジされた細かな工夫が見て取れる美しいお皿がいくつも並んだ。

「食べるのがもったいないですね」
ありふれた言葉だけれど、本当にそう思った。

「食べないでどうするの?」
苦笑いする創介さんも、どこか楽しそう。

「いただきます 」
「召し上がれ」

普段食べなれない高級フレンチに、少し緊張しながらまずは一口

「うぅん、美味しい」
私の声が大きくなった。

季節感を盛り込んだ前菜や、地元野菜を使ったサラダとスープ。
新鮮なお魚も柔らかのお肉も本当に美味しくて、初めは緊張していた私も気がつけば夢中で食べていた。

「よかったら、何か飲む?」

創介さんがワインをすすめてくれるけれど、車で来ている創介さんは飲めないし私もあまりお酒が強くない。

「今日はやめておきます」
「そうだなぁ。今度オープンしたら泊まりに来よう」
「え、ええ」

私は創介さんが好きだし、創介さんからも好きだと言ってもらった。
一部のメディアに顔が出たこともあり、付き合っている事は社内でも公認の仲。
それでも、上司と部下の関係は変わらないし、一般庶民の私にとって一条家は遠い存在。
お互いに好き合っているとは言え、この先の将来を考える事はない。
創介さんとはやはり住む世界が違うのだと、私は思っている。