「どうだった?」
 顔、上げらんない。
 うつむいたまま、私は何度も(うなず)いた。

「そっか、ああ、よかった……!」

 その(ほが)らかな声に、私は恐る恐る顔を上げる。
 河村は笑っていた。(ひたい)には汗が浮いていて、夕陽がその汗をきらきらと輝かせていた。

「つかめた気がする。めっちゃうれしいわ」

 胸がドキンと跳ね上がった。
 なんだろう、まるで推しを初めて見たときのような、興奮と感動が入り混じった感覚に、私は戸惑(とまど)う。

 河村はすっと片手を差し出した。

「笹本のおかげだ。まじ、ありがとな」
 
 おずおずとその手を握った。
 てのひら越しの温度の熱さに、私はなんだか、涙が出そうになった。