「…いま、なんて?」
「だからね?父さんと母さん来週から5年ほどニューヨークの法律事務所に赴任することになったの」
「聞いてないっ!!」
「ごめんねぇ。だって母さんはてっきり父さんが話したとばっかり思っていたんですもの」
「来週からって…。急いで準備しなくちゃ」
「え?」
「え?」
わたしがこうしちゃいられないと席を立つと、母さんがポカンとする。
「準備って?」
「ニューヨークへ行く準備に決まっているでしょ!?ああ、パスポートどこやったっけ」
そんな慌てた様子のわたしを見て母さんは合点(がってん)がいったような仕草をするとケラケラ笑って、
「やぁねぇ、アンタは連れて行かないわよ」
そう、言った。
「…え?ってことは、わたしひとりで暮らすの?」
憧れのひとり暮らし!それはそれで悪くない!
「何言ってるの。16の娘にひとり暮らしなんてさせるわけないでしょっ」
「じゃあわたしは一体どこで誰と暮らすって言うのよ?」
そんなわたしの言葉にクスリと笑うと、母さんはいたずらっぽい瞳を輝かせて、
「いるじゃない。あなたのことを誰よりも愛している騎士(ナイト)が」