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 父と別れ、リオネルとともに侯爵邸に迎えられる。
 ずらりと並んだ出迎えの面々に、イネスは少々面食らった。


「おかえりなさいませ、旦那様、奥様」


 侯爵家の使用人だけあって、彼等はとても礼儀正しい――――のだが、満面の笑み、爛々と輝く瞳からにじみ出る歓迎オーラがあまりにも眩しく、胸やけを覚えそうになるほどだ。


「ただいま帰った! どうだ、俺の妻はとても可愛い人だろう?」


 リオネルはとても上機嫌な様子で、イネスの肩を抱き寄せる。イネスは思わず目を見開いた。


(可愛い? 私が?)


 先ほども言われた言葉ではあるがどうにも受け入れがたい。公爵邸でのイネスの評価といえば『イザベルの劣化版』というものばかりで、そんなふうに褒められたことは一度もないのだから。


「ええ、本当に! 噂には聞いておりましたが、とても愛らしいお方ですね!」

「噂? けれど、私の噂と言えば、姉より劣るというものばかりで……」

「そうだろう! イネスは本当に可愛い! 誰よりも可愛い! 君のために用意したドレスを着てもらうのが楽しみだ!」


 イネスの言葉を遮り、リオネルは快活な笑みを浮かべる。それから彼女の両手をギュッと握った。


「来てくれ。屋敷の中を案内しよう」