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 イネスと結婚相手であるリオネルが顔を合わせたのは、結婚式の本番だった。

 一ヶ月もの間、嫁入り道具とともに馬車に揺られ、海の見える美しい都市へと辿り着く。
 宝石のように煌めく海に、風に帆を揺らす船たち。潮の香り、鮮やかな花々。すれ違う人々の服装は軽やかで明るく、王都とは違っている。まるで異国の地に来たかのようだった。

 到着早々、教会の一室に押し込まれ、結婚式に向けた準備が行われた。


 公爵家の威信をかけて作らせた豪奢なウエディングドレスを身に纏い、イネスはバージンロードを父親とともに歩く。

 道の先に居るのは、今日からイネスの夫となる人――――リオネル・オシャロア侯爵その人だ。


 明るい金色の短髪に少し日に焼けた肌、長身で、婚礼衣装を着ていても分かるほどに逞しい。同じ高位貴族でも、イネスの父親や兄とはタイプが違っているように思えた。

 段々と近づいていくにつれ、彼の顔立ちがハッキリと見えはじめる。

 形良く高い鼻梁に、朱金色に光る大きな瞳、知性を感じさせる太めの眉に薄い唇。文句なしにカッコいい、大人の男性だった。