「まぁ! イネスったら、そんなことも分からないの?」


 おはようやおやすみと同じレベルで使われる姉のセリフに、イネスは内心ゲンナリしてしまう。


(いや、分かるわけないでしょう)


 イザベルが求める知識の質はあまりにも高い。彼女と同じレベルを求められたところで、誰にも応えられるはずがないのだ。
 もちろん、イザベルが知識を得るために努力をしていることは知っているし、素直にすごいと思っている。けれど、イザベルには決定的に欠けているなにかがある――――イネスはそんなふうに感じていた。


 さて、イザベルが18歳で王太子妃となり、屋敷を出たことで、イネスに平穏が訪れた――――かのように思われた。

 けれど、それは大きな間違いで、今度はイネス自身の結婚に向け、両親からネチネチと嫌味を言われるようになったのだ。