「はあ……疲れた」
残業続きの仕事からようやく開放され、私は乱暴にバッグを床に放り投げた。ボスンと埃が立ち、掃除をしていないのが丸わかりだ。疲れ切った私は着替える気も起きず、スーツのままベッドに寝転んだ。
「……カイルに会いたい」
私、渡辺咲良は、一年前、異世界に聖女として召喚されたことがある。
「……瘴気ですか?」
「はい。聖女サクラ様には、わが国オズマンドの瘴気を払ってほしいのです」
ある日突然、足元で魔法陣が光ったと思ったら、次の瞬間にはたくさんの人に囲まれていた。上を見上げると天井一面に宗教画のような神々しい絵が描かれていて、窓には色とりどりのステンドグラスがきらめいている。
ペタンと座り込んだ私に手を差し伸べるのは、顎に白い髭を蓄え、いかにも聖職者といった服装をしているおじいさんだ。優しくほほ笑み「どうか我々を助けてください」と、私の手を握った。その手の温かさに、私は思わずうなずいてしまったのを覚えている。
「サクラ様! 大丈夫ですか! ブルーノ、サクラ様の手当てを!」
瘴気を浄化するのは、思っていたより大変な仕事だった。そもそも瘴気は吸うと病気になってしまう毒の霧のようなもの。それを私は一度自分の体に取り込み、綺麗にしないといけないのだ。