「おはよう! 大聖女サクラ」
「師匠……いい加減からかうのは止めてください!」
ケセラの町から王宮に戻り、もうこの会話のやり取りも何度目だろう。サクラは飽き飽きしているようで、ジャレドをジロリと睨んでいる。それでもそう呼ぶのは彼だけじゃない。むしろ今回の事件を知らない人たちほど、サクラを聖女ではなく「大聖女」と呼んでいるのだ。
「そりゃあ、魔法陣もないのにサクラ一人の力で結界を張り直したんだよ? しかも今回の結界は内側だけじゃなく外にも影響があるからね。隣国のサエラからは瘴気が減っていると感謝の手紙が来ているよ」
サクラの作ったあの虹色の結界は、この国だけじゃなく外国にも影響を与えるすごいものだった。彼女に言うつもりは全くないが、アルフレッド殿下には隣国からサクラに結婚の打診があったらしい。
(殿下と婚約していないことでサクラに相手がいないと思ったらしいが、ケセラから帰った当日に婚約して良かった……)
しかし彼女のなかでサエラ国について思うことは、結界で感謝されることよりも別のことらしい。ほんの少し顔を曇らせ、言いづらそうに話し始める。