「お兄様! なぜですの? なぜ私が隣国サエラなんかに嫁がなきゃいけないのです?」


 王族とその護衛をする騎士しか入れない豪華な部屋で、この国の王女であるアンジェラ様の叫び声が響いている。俺が今護衛しているその人は妹である王女の荒ぶる様子に、もう何度目なのか忘れてしまったくらいのため息を吐いた。


(おっと、アルフレッド様の後ろにいる俺のことも睨み始めたな……)


 殿下の護衛として王族の話し合いの場にいるのは初めてのことだ。たいがいこういった場にはカイル団長がつくもので、俺がここにいることすらアンジェラ王女には腹立たしいのだろう。


(しかし噂では聞いていたが、陛下は王女を甘やかせすぎたな)


 アルフレッド殿下の母親である王妃様は、産後の体調不良で崩御されている。そのあと数年後に側妃様からお生まれになったのがアンジェラ王女。その側妃様も王女が五歳の頃に流行り病でお隠れになってしまった。


 そこからだ。陛下はことさらアンジェラ王女を甘やかし、十六歳になられた今では手が付けられないほどの我儘ぶりだ。


(王女の母親にあたる側妃様が陛下の長年の想い人だったという噂がある。それが真実なら愛する人の忘れ形見で甘やかしてしまったのだろう……。本来なら塔に幽閉するくらいの処罰が必要なのだが証拠がない)