「殿下! それではサクラの記憶はどうするおつもりですか! この国のために違う世界から召喚され、体に負担をかけてまで浄化したのですよ! それなのにこんな仕打ちは……納得できません!」
ぶるぶると震えるほど拳を握りしめ、カイルは殿下を睨みつけている。
たった一年ほどの付き合いだけど、彼が殿下に対してこんな態度を取ったのを初めて見た。いつも臣下として殿下に忠実だったカイルが、私のために逆らっている。
その態度に殿下も驚いた顔でカイルを見ていた。
「カイル、気持ちはわかるが今国境の近くにはかなりの瘴気が渦巻いている。そのことは報告があったからわかっているだろう?」
「それはそうですが……」
「私だってなんとかしてサクラさんの記憶を取り戻したいが、結界が壊れれば瘴気が一気にこの国を襲ってしまう。そうなれば私はこの国の王太子として聖女である彼女に、浄化を頼まなくてはならない」
アルフレッド殿下もつらい表情で私を見ている。彼は一度目の召喚の時にも、浄化の大変さを思いやってくれていた。それでも彼はこの国の王太子。たくさんの国民が病気になるのと私の記憶では、選ぶのはもちろん決まっている。