(え? 私が殿下の婚約者!?)
「な、何をおっしゃっているのですか!」
突然の殿下の婚約者宣言に、カイルはあわてて私を背中に隠した。アルフレッド様はそんな失礼な態度に怒るでもなく、クスクス笑っている。
「だって、彼女は聖女なんだろう? たしか初代聖女は、王族と結婚したはずだ。それが一番政治的に無難だしね。ラドニー公爵家がこれ以上力を持つのは、王族として良しとしないなぁ」
「そ、それはそうですが。しかし彼女は――!」
「へえ、彼女はカイルのなんだって言うんだい?」
そっと二人のやり取りをのぞくと、殿下は面白い玩具でも見つけたような顔で、じりじりとカイルに近づいていた。一方真面目なカイルは、からかわれていると気づかずに険しい顔で殿下を睨んでいる。
(ふふ、この会話、二度目だわ。最初に殿下に会った時も同じこと言ってた。もちろん二人は覚えてないけどね)
カイルとアルフレッド殿下はとても仲が良く、兄弟みたいに育ったそうだ。カイルが二十五歳で、殿下がたしか二十二歳。真面目なカイルを実の兄のように信頼し、他の人には決してしない親しさを彼だけには見せていた。