でももう後戻りはできそうにない。師匠もカイルも私が聖女だと宣言してしまった。そのうえ司教様が匿っていたこともバレている。


(どうしたらいいの?)


 チラリと横目で司教様を見ると、不思議なことにものすごく落ち着いていた。椅子にゆったりと座り、なにか手紙を読みながら、ことの成り行きを見守っている。


 師匠のジャレドも同じだ。私のあせる気持ちなど気づきもせず、余裕たっぷりの笑顔で王女に話しかけ始めた。


「いいえ、アンジェラ王女。彼女は聖魔力の持ち主ですよ。おお! ちょうどこちらに魔力検査板がございますから、王女様たちの前で調べてみましょうか」


 これじゃ、まるで一人芝居だ。身ぶり手ぶりも大げさで、王女たちをからかってるみたい。案の定、王女とエリックはジャレドをキッと睨みつけ、あざ笑い始めた。


「この女には魔力がないの! そんなに恥をかきたいだなんて、笑わせないでほしいわ!」
「ふん。これが国一番の魔術師だとは。魔力の有無すらもわからないなんて、嘆かわしい」


 しかしそんな罵倒も師匠は何も感じないらしい。眉一つ動かさず、かわりに極上の笑顔で私に手を差し伸べる。


「さあ、我らが聖女サクラ! こちらにその麗しい手を置いてください」


(師匠ったら、悪ノリしてる。本当にうまくいくのかな……)


 師匠の意図は全くわからないけど、従うしかない。私は差し出された魔力検査板を前にゴクリと喉を鳴らすと、ゆっくりと手を置いた。