(すっかり忘れてたけど、カイルとアンジェラ王女は婚約してるのよね。でもこの様子じゃ、それもなにかの策略なのかもしれない。師匠に口封じの呪いを解いてもらったら、絶対にカイル本人に聞こう!)


 そう決意してまた耳を澄ますと、今度は聞き覚えのある男の人の声が聞こえてきた。


「アンジェラ王女。教会は主に寄付で成り立っている質素な団体です。王女様にはふさわしくない場所ではございますが、少しの辛抱ですよ」
「あら! ただ祈って物乞いをしているってこと? かわいそうな人たちねえ」


 今度は私が怒りで震える番だった。


(聖教会は祈ってるんじゃなくて、浄化してるの! 瘴気があったら集めて、国民が病気にならないように頑張ってるのに!)


 もちろんこの教会の人たちは、私のようにたくさんはできないし不完全な浄化らしい。でも司教様が各地に出向いて、コツコツと瘴気を見つけては取り除いているのだ。


(今なら林檎だって握りつぶせそう! 本当にこのワガママ王女、ムカムカする! それにこの男の人の声、誰だっけ……?)


 イライラしながらもその声の主を思い出そうとしていると、カイルが小声で答えてくれた。


「この声はエリックだ。アンジェラ王女の家庭教師をしているが、サクラは彼のことも覚えているか?」


(そうだった! たしか私が王宮に現れた時に、私のことを拷問しろって言った人だ!)


 私はコクコクとうなずくと、壁越しにいるであろうアンジェラ王女たちを睨んだ。それでも苛立つ私とは違い、司教様は穏やかな声で王女たちに対応している。師匠も一言も話さず、気配すら感じない。