「へぇ〜奥が深いんですね、水彩画って♪」


美咲ちゃんは、水彩画にずいぶん興味を持ってくれたようだ。



水彩画を描くには、もちろんやり方は人それぞれだけど、基本的にはその風景のある場所へと出向かなければならない。



つまり、絵を描く度に部屋を出て外に出掛けなければ出来ない趣味なのだ。



これは、不登校の美咲ちゃんを外に連れ出すのには絶好の口実になるんじゃないかと、僕は考えた。



外に出ないというのは、ただ、単に部屋から出たくないという訳ではないのだと僕は思う。



外に出たくないのでは無くて、外で人と接触する事に拒否反応を示しているのだろう。それなら、外に出てただ水彩画を描く事に没頭し、自分の世界の中にいられるこの時間は、美咲ちゃんにとってはさほど苦痛な時間でもなく比較的ハードルも低いのでは?と、思った。


とにかく、美咲ちゃんが水彩画に興味を持っている今がチャンスだ。僕は、あの手この手を使って美咲ちゃんを口説いた。



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