「───アンナ、診療所を開かないか」
夕食時
代わり映えしないけれど、でもどんどんレパートリーが増えた料理。
若干砂糖の入れ過ぎで、甘ったるいミネストローネを口に運ぶ私に、話しかける男の黒髪は少し伸びた。
「............ん?」
「診療所を、開かないか」
意味が分からず、翡翠色の瞳をしばらくの間ぽかんと見つめていた。
私の頭がおかしいのか、間違って単語を覚えたか。
お前が病の元を見つけ、俺が薬を調合する。
少しのお金を貰いながら、働くのはどうか、と。
家事は......そのうち人を雇おう。
だからアンナ一緒にやらないか、と。
「え、あの......」
顔でなんだ、と促す彼に続ける。
「診療所って、あの、俗に言う “病院” 的な.......そういう認識であってますか...?」
慌てたせいで文法の欠片もないエナノフ語で訊いてみても、答えは肯定だった。
手振りがうるさく、でも何とも言えない気持ちで表情が固まる私に、イヴァンは微かにいたずらっぽい笑みを湛える。