「───おい、大丈夫か」
肩を揺すられ意識が浮上する。
薄っすら目を開けると、段々と見慣れてきた男の顔が映った。
「っ......近い」
夢見が悪かったことを覚られないように、誤魔化すように不満げな声を出してしまう。
「それはすまなかったな。飯は作った。早く食べたいんだが」
「......作ったの?...なら一人で食べればいいのに」
「あ?なんか言ったか」
「ぁ、いや......ううん。ありがと」
忘れさせてくれない。
忘れかけるといつも、どこからかやってきてまた私に大きな引っかき傷をつけるように。
頬に残った涙を指先に擦り込み、新しい私を、思い出す。
もう違う、私は変わったのだ。
違う、違う......!
追いかけてくる夢だった。
イヴァンは、何も聞かなかった。
今後聞くことも、ないだろう。
そんな気がした。
それは、関心が無いだけなのか、優しさなのか。
今のアンナには、知る由もない。