しばらく息も忘れて身動きもできず突っ立っていた。


......すごい。



すごいな、ほんとにすごい。


こうやって立派な実験室を持っていることや、好きなことを仕事(多分?)にしているところ。


───羨ましいな...


薬...を作っているんだよね?

すごい。

いいなぁ...


見事な技に思わず嘆じていると、おもむろに黒い髪が揺れこちらを振り向いた。

その翠色の瞳が私を捉えると、僅かに眉がひそめられた。

───この間よりは、もう少し柔らかに。


「何の用だ」

「...あ。......ああ、お昼を作りました。遅くなってしまってごめんなさい」


我に返り、慌てて頭を下げる。

初日の昼から馬鹿げた失態を犯してしまったことを思い出す。

しかし、改めてがっくりと自分に呆れ肩を落とす私を咎める様子もなくすっと彼は立ち上がる。

頭一つ分背の高いイヴァンは私の横に立ちノブを掴むと、いつの間にか消えていた扉は図書室と同じように、ぼやぁ、と再び浮かび上がった。


無言で先に出て行ってしまったどこまでもミステリアスな男を、小走りに追いかけた。