様々な種類の植物が生えた温室を横切り、静まり返った小屋の前に立つ。

木のプレートには《実験室》と掲げられていた。


ノックし、扉を開ける。


──瞬間、またもや空間がぐわんと変形し、様々な音が飛び込んできた。


草の入った木鉢とすりこぎが擦れる音。
黒紫色の液体が減圧したとみられるフラスコで沸騰する音。

そして奥の机で背中を向けて座っている彼は、書物を片手に何かを調べているよう。
もう一方の手は、大きなボウルに入った泥色の何かを撹拌(かくはん)している。


その姿に、今は話しかけるべきではないと言われている気がした。

足元に注意して一歩後ずさると。


瞬間、奥の大きな器がぐらぐらと揺れだした。

イヴァンが呪文を唱え始めたのだ。


思わず身を乗り出す。

彼は分厚い本から顔を上げないまま、私の目の前のフラスコを掴む。


そーっと黒紫色の液体を垂らすと、じわじわとしっとりしたピンク色が浮かんでくる。


そのまま静かに混ぜ続け、パッと何かが混ざりきった途端、小さな破裂音がしてくすんだ桃色の液体が完成したようだった。

仄かに花の香りが漂う。