お母さんが、こんなことを思っていたなんて知らなかった。気付かなかった。

自分の名前がずっと嫌いだった。
でも、私の為につけてくれた大切なお母さんが最後に残してくれた大事な贈り物だったんだと今更気付く。

「 お母さん、私巡り会えたよ。暖かくてとっても…とっても優しい人に。」

ねぇ、この言葉は届いているのかな。

お母さんも暖ももうここにはいない。それでも二人はどこかで私を見守ってくれているような気がした。

そう思うとこんな世界も少しは悪くないのかもしれないと肩の重荷が降りたような感覚になる。

昔にふと思った言葉。どうして、優しい人ばかりが花のように積まれていって私のような人が生きているのかと。

今だってそう思ってしまう。でも暖やお母さんはそんなこと望んでいるだろうか。

私のことをこんなにも大切に想ってくれている人達がいるのだ。

私は唇を強く引き締めて、お父さんの元へと向かった。

「お父さん…私、話したいことがあるの」

いつもよりも真剣な表情の私にお父さんも少し困惑したような顔を見せたけれどすぐに「どうしたんだ」と応じてくれた。

「お父さんがくれた暖からの手紙、それとお母さんからの手紙をさっき見つけたの」

「…そうか」

お母さんの話題をだしたことに驚いた様子はあまりなかった。もしかするとお父さんは手紙の存在も知っていたのかもしれない。

「私、暖がいなくなってからまた子供の頃みたいに弱い自分になりかけてた」

お父さんは何も言わずに耳を傾けてくれている。

「でも二人は私に前を向いて生きてほしいと願ってくれてる。だから私、頑張ろうと思うの」

私には一つどうしても伝えたいことがあった。

"大切な、絶対に叶えたい夢ができた"こと。

「_____私、小説家になりたい。」

その言葉にお父さんは目を見開いて驚いた顔をしていた。

「 才能がある訳じゃない私にとって難しいことも、この選択が正しい道なのかも分からない。」

「……」

「…っでも、生まれて初めてやりたいことができたの。あやふやに生きてきた私だけどこれだけは叶えたいの。お願いします。」

進路のことももう決めなければいけない時期にこんな事を言いだしてお父さんを困らせるかもしれない。

けれど決して後悔も揺るぎも私の心にはなかった。

二人の想いが私の背中を押してくれている気がしたから。

私の人生は私のもので一度きり…それなら後ろを向いて逃げるんじゃなくて私は前を向き続ける。