「っ…ぁ、うぅ…は、る…!」

喉が詰まりそうになる。なんで、なんでなんだ。
なんで暖はいなくなってまでもこんなにも暖かいの。

手紙に書いてあるとおりに封筒の中を見てみると、そこには『半透明のクジラのキーホールダー』が入っていた。

これは私が水族館で見て一番気に入っていたものだった。光にかざすとキラキラと輝いて、本当にすごく綺麗だ。

なんで暖は私が欲しいものが分かるのだろうか。

会いたい、話したい、本当はいつまでも笑いあって暖の温もりに包まれていたい。

それでも暖がこんなものを残してくれたのはきっと私に前を向かせてくれるためだ。

このままではいけない。弱虫で怖いから逃げて、忘れる私にはなったら駄目なんだ。

「私は、暖に助けられてばっかだね…」

独り言のようにポツリと言葉をこぼす。

今思えば、私がどうしようもなく苦しい時どんな時も暖がいた。

幼い頃から私を助けてくれて、高校生になってからも私に会いに来てくれた。チカとの関係で悩んでいる私のことを助けてくれた。

暖のことを忘れていた私を咎めることもせず、ただ見守って支えてくれていた。

暖が病気だと知った時に少しでも時間を無駄にせずにしようと前を向けたのも暖のおかげだった。
変わりたいと思ったから。自分を変えたかったからだ。

すぐに元気でいようなんて難しいけれど少しづつ前を向いていくんだ、"暖のため"にも。

「…この手紙はなくさないようにしまっておこう」

そう言って私は何十枚か重ねられている手紙入れに手をつけた。幼い頃からのもあるため結構たくさんの手紙が入っている。

手紙を整理しているとパラッと1枚の手紙が床に落ちてしまった。

「…?なんだろう、この手紙」

そこには見たことのない一通の手紙があった。


宛名も名前も書いていない。気になり封筒をあけてみるとそこにはまた"冷へ"という文字が書かれていた。

けれどこれは暖からの手紙ではなかった。

これは…氷室という苗字が書かれている。お母さんからの手紙だった。