けれど、もう暖の息が細くなっていくのが分かる。

ひゅーひゅーと苦しそうにしている。ナースコールを押そうとしたけれど暖はそれを止めて首を横にゆっくりと振った。

「…冷と二人で一緒にいたい。ごめんね、こんな最期に、わがままで」

へらっと無理に作った笑顔に私は何も返せなかった。だってずるい。私が断れないのを知ってそんなことを言うんだ。

「小説…まだ書き終えてないんだ、でも楽しかった。最後に夢が叶えられたような気分になれたのも全部、冷のおかげ。」

「私は何もしてないよ…ねぇ、暖行かないでよ…っ。は…る……っ!」

「…冷、もうおやすみだよ。お願い、僕のことは忘れてもいいから幸せになって」

もう今にも目を閉じようとしている暖に縋り付いてしまう。でも、さっきも言われた言葉を思い出す。

「っ…!幸せになるよ、でも絶対、ぜっったいに暖のことは忘れない!!ずっとずっと私の心にいる太陽みたいな存在なんだよ…!」

縋り付く苦しんだ顔なんて暖だって見たくない。
だから最後くらいは無理をしたっていいでしょ。

ねぇ、暖。いなくならないでほしい、ずっと一緒にこの先もいたいよ。でもそれがどうしても叶わないなら今この瞬間だけでも君の笑顔が見たいよ。

「はは…ふっ…幸せだなぁ、最期に冷の笑顔が見れるなんて」

愛おしいものを見るような瞳で、いつもは暖かいはずの手が少し冷たくなっていて私の頬に添えられる。

「_____ありがとう、冷ずっと愛してる」

そう言って暖は私の唇にそっと触れた。
けれどすぐにその温もりは離れていって暖は目を瞑っていた。

「っ!はる……起きて、ねぇ…起きてよ」

私の声は病室に一つ響き渡るだけだった。
それでも暖の手はまだほんの少しだけ暖かい気がして手を強く握ると握り返してくれたように思えた。