その夜、私はどうしたら暖を笑顔にできるかをずっと考えていた。"後悔のないように"この言葉がずっと染み付いている。

私がしたいことは暖を笑顔にすること。せめて最期の瞬間まで幸せだったと思えるように。
そんな簡単なことじゃないのは分かってるけど、それでも私は恩返しがしたいから。

そんな時にふと暖の夢を思い出した。

『____将来は小説家になりたいんだ』

辛い人を救いたいと言っていた暖。

叶わない夢なのかもしれない。でも、そんなのおかしいと思うんだ。

世界を憎んでもおかしくないのに誰かを救いたいだなんて言っている誰よりも優しい人。

暖の言葉を、気持ちを、この苦しい世界で届けられたらどんなに良いのだろうか。
そう考え始めると私はいても立ってもいられなくなり暖にメッセージを送った。

[明日、話したいことがあるんだけど時間大丈夫かな?]

送ってからこれは本当に暖の為になるのかなと心配になってしまったけれど自分の意思を信じることにした。

[大丈夫だよ]

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翌日になり、私は暖に昨日思ったことをありのまま伝えた。

「暖の夢、今からでも叶えようよ」

そんな私の唐突の言葉に「え?」と彼は驚いた顔をしている。

「僕の夢は、きっと難しいよ…才能もある訳じゃない」

無理やりに笑ったような暖の表情からは切なさ、やるせなさ、そして優しさも含まれていた。

自分をどこまでも卑下するのに私に嫌な思いはさせないように優しく伝えてくれる君。
そんな君だから伝えたいと思ったの、諦めないでほしいと思ったの。

「ううん、暖には才能があるよ…優しくて、暖の紡ぐ言葉はいつも暖かくて誰かを救える力がある」

暖は目を見開き驚いた顔をしていて、目元が少し震えている。
私は言葉を続けた。

「信じれなくてもいい、でもね少なくとも私は救われたよ。この世界の一人でも君に救われてるの」

できるだけ優しく、落ち着いて、私は一つ一つの言葉を噛み締めながら話した。