ーー北条 夏輝ーー





















簡単に言えば、初恋の人で。


























そして、終わった恋の相手だ。






















「ご、ごめん......桜果、私が井田と同じクラスになってしまいました......」









「え?あ、うん、いいよ別に、謝ることじゃないよー」










松本の声で井田と同じクラスじゃないことを知った。










北条と同じクラスになったことに奪われすぎてしまった。

























「ほんと......?いや、本当は心に来てるよね......」










心に来ているか。










来てる。










ちょっとだけ痛かった。










だから思ったことをそのまま口にした。















「ちょっとだけね(笑)」













「だよね......まじごめん!!!」





「松本にどうこうできる問題じゃないんだから、謝ることじゃないでしょって(笑)」






松本は私がどうこう言おうとあまり届かない。




そういう子だ。















「じゃ、LJK、違うクラスだけど楽しもー!」


「うん!またねー、!四組楽しんで!!」












一階に教室がある松本と別れて階段を上る。









階段を登らず、
楽できた可能性があったのにな。


という不満を、一段一段にぶつけて登っていく。





まあ、階段その物自体に罪は無いけど。








とかなんとか脳内でブツブツ言っていればあっという間に、





二階。







四組。








自分の席。
















新しい匂い。私はこの匂いが本当にすきだ。









「よ!矢野!また隣よろしくなー!!」





新しい匂いの次は、新しいことが始まる時のセリフ。"よろしく"が聞こえてきた。








でも、"また"よろしくな!だ。







「うん!まただったねー、よろしく!」


彼は高一の時も隣だった、
吉川 架絃《よしかわかいと》



野球部の陽キャでとにかく良い奴。






「矢野と吉川だから毎回隣になるんだなー!」








「まあそうだねー、てか仲良い人同じクラスにいたー?」






「野球部は少ないけど、仲良い奴はまあいるって感じだな!そちらは??」







「私はソフト部が一人いるから充分!」






「そっかそっか、石田いるもんな!てことはうるさくなりそーだなーー!(笑)」









「笑い方には気をつけます......」








石田、というのは同じ部活の


ーー石田 さくらーー
(いしだ さくら)






ソフト部は基本全員、うるさい。で有名?
なのだけど、






私とさーちゃんは引き笑いがうるさいタイプ。






サイレンと言われてしまっている。








救急車やパトカーではなく、
避難を促すあのサイレン、









だけど、私たちは救急車みたいに移動しながらサイレンを響かせるし、








避難しろ、と知らせることも出来る(?)








これだけ聞くと最悪だが、








石田はとにかくモテる。









ぱっちりとした"おめめ"なのはもちろんだが、




それを際立たせるちょこんとした可愛らしいお鼻に、




小さいお顔。






ぷるんとしたお唇。








さーちゃんの顔は全てが女の子って感じがする。








全てが可愛らしいので、目とか鼻とかじゃなくて、おめめとかお鼻とか、
柔らかい言い方に、
つい、してしまいたくなる。







つまり私はさーちゃんをかなり気に入っている。





















なんてそんなたわいもない話をしながら、
自然とドアをちらちら見てしまっている自分がいた。










あぁ、ほんとに来た....,.
















教室に入ってきたのは北条夏輝。









相変わらず髪の毛はさらさらで、一瞬で教室までもが爽やかな雰囲気になった。







北条夏輝とその周りだけがやっぱり他とは
空気が違う。





















と思っているのはきっとみんなだ。











なんて、何を考えているのか、私は。























ーーやば、目が合ったーー























そっか.....逸らすんだ......













期待した自分がいたことにびっくりした。














同時にがっかりした。










その人の記憶は
まだ私たちが中学生の頃の話。













私たち、というのは、私と











夏輝と












さーちゃんが





あの学校に通っていた頃の話。




















三角関係の結果、邪魔者の立ち位置に
私がいた頃の話。













ーー北条 夏輝ーー










簡単に言えば、初恋の人で。











そして終わった恋の相手だ。











だから過去の話も、













簡単に言えば、私の初恋の話で。












複雑に言えば、

自分の中でずっと引きずっている話。