ある小さな村に、おじいさんとおばあさんと三人で暮らす娘がいました。

 娘はおじいさんの畑仕事と、おばあさんの洗濯を手伝ってから森に遊びに行きます。

 森の水辺には、色とりどりの花がいっぱい咲いていて、そのほとりには一本の大きなクスノキがあります。

 そこが、娘のお気に入りの場所です。

「おはよう」

 と、クスノキに抱きつき、それから、クスノキに背もたれして、みんなが来るのを待ちます。


 そして、みんながやって来ました。

 ドスンドスン!

 この足音は、クマさんです。

 ピョンピョン!

 跳ねる音は、ウサギさんです。

 スルスル……

 枝がこすれる音は、リスさんです。

 チュンチュン!

 小鳥さんもやって来ました。

 みんな、仲良しです。

「みんな、おはよう」

 娘があいさつすると、

 クマの頭にウサギがピョン!

 ウサギの頭にリスがスルスル!

 リスの頭に小鳥がチョコン。

 それぞれが迷惑そうに、上目づかい。

「ふふふ……」

 みんなのこっけいな表情に、つい、娘は笑ってしまいます。

「きょうはね、おじいさんから聞いたお話だよ。――」

 娘は、森のみんなにお話を聞かせます。


 そんなある日。

 いつものように森へ行くと、(おの)を持った男が、クスノキを切ろうとしていました。

「ダメーッ!」

 娘は、大きな声を上げながら駆けつけると、男の前に立ちはだかり、両手を広げてクスノキを守りました。

 しかし、男の振り上げた(おの)は、勢いあまって下りてきました。

 あまりの恐ろしさで、娘は気を失ってしまいました。


 ……どのくらい経ったでしょうか……。

『娘や、私を助けてくれてありがとう。あなたはきょうから、この森のお姫さまですよ。これからも、森や動物を守ってくださいね』

 と、女の人の声がしました。

 娘がぼやけた目を開けると、そこには、心配そうに見ているみんなの顔がありました。

「みんな、ありがとう。だいじょうぶだよ」

 そう言って娘はからだを起こすと、クスノキに背もたれしました。すると、

 クマがジャンプして、ドッスン!

 ウサギが跳び跳ねて、ピョン!

 リスは小枝にスルスル!

 小鳥は羽ばたきながらチュン!

 みんなが喜んでくれました。

 ……あの声はだれ? 夢を見てたの? それとも、女の人が助けてくれたの?


 そのことをおじいさんとおばあさんに話しました。すると、

「それはの、木の精じゃ」

 煮物の大根を食べながら、おじいさんが言いました。

「……きのせい?」

「そうじゃ。どんな木にも精霊(せいれい)が宿っとる。その巨木にもな。古い木は森に住み着いて、みんなのことを見守っとるんじゃ。だから、お前が悪い(きこり)から木を守ってくれたから、感謝したんじゃ。木は生きとるんじゃよ」

「……じゃ、その木のせいが私を助けてくれたの?」

「ああ、そうじゃ」

「それにしても、ケガがなくてよかったの」

 おばあさんが目を細めました。

「うん。……木のせいさん、ありがとう」

 娘は(はし)を置くと、手を合わせて、木の精に礼を言いました。


 娘はきょうも、おじいさんとおばあさんの手伝いをすると、森に行きました。

 そして、クスノキに抱きつくと、

「木のせいさん、私を助けてくれてありがとう」

 と、言って、見上げました。

 すると、クスノキの(こずえ)がザワザワと葉を揺らしました。

 クスノキが返事をしたみたいに思えて、娘は笑顔になりました。


 水辺のレンゲソウをつむと、クスノキに背もたれして、レンゲソウをつなげながら、みんなが来るのを待ちました。


 ドスンドスン!

 ピョンピョン!

 スルスル!

 チュンチュン!

 みんながやって来ました。

「みんな、おはよう」

 みんなにあいさつすると、レンゲソウで作った花冠(はなかんむり)を頭にのせてみました。

 すると、みんなが拍手しました。

 (かんむり)をのせた娘はまるで、お姫さまのようでした。



 おわり